ロシア研究の背景

ウクライナ戦争の背景を知るべく、これからロシアやウクライナの本の紹介をしていきますが、ここではどういう観点からその研究を進めているのかという背景を示しておきます。

 

ちなみに、私も今回の戦争を完全に正確に予想出来ていた訳ではない。具体的には、東南部の侵攻と合わせて、首都キーフの電撃占領による傀儡政権の樹立というシナリオがメインだと思っていた。しかし、電撃占領は失敗する可能性もある訳で、そうなった際にここまで本格的に全面戦争をするという確信はなかった。こうした予想がどのように導かれたのかは後述する。

 

まずこの問題については、ロシアのウクライナ侵攻のあった2014年より後の2017年に、「プーチン時代の終わりの始まり」という文章を書いた。今でこそプーチンの「終わりの始まり」が議論されているが、遅すぎると言わざるを得ない。先の文章では

 

(1)プーチンの健康・寿命

(2)ウクライナ問題の泥沼化

 

の2点を挙げておいた。まず1点目だが、2022年時点でプーチンは69歳になっている。ちなみにロシア人男性の平均寿命は68歳程度とされており、既にそれを過ぎてしまっている。もちろん、プーチンはタバコも吸わず、酒もほとんど飲まないなど、平均的なロシア人男性より健康には気を遣っているように思われるが、「独裁者のストレス」というものは凡人の想像の及ばない部分がある。また、プーチンには以前からパーキンソン病の疑いがあり、近年では認知症も疑われている。

 

  • 独裁者の権力移譲という問題

ここで重要なのは「独裁者の権力移譲」という問題だ。この問題はとにかく解決が難しい。独裁者というのは、とかく恨みをかいやすいものだ。特に独裁者を生むようなヤバい国では、権力を放棄した途端に独裁者が酷い目に合うことは珍しくない。また、自分だけでなく家族・近親者や親しい人間も危ない目に合う可能性がある。プーチンは妻と離婚したようだが、娘が2人いる。プーチンは孤独なイメージがあるが、それでも近しい人間も数人はいるだろう。

 

こうした問題を解決するために、独裁国家では安定した権力移譲のシステムを構築していることもある。一番単純なのは、独裁者の子どもが次の独裁者になるパターンで、北朝鮮などがそうだ。しかし、プーチンの場合は子供が娘だし、表舞台に出ておらず政治に関わってはいないようだ。それ以外にも有力な近親者もいない。

 

2つ目のパターンは、もっとシステマティックなものだ。例えば中国の最高権力者は国家主席と、それを含む中央政治局常務委員会委員の7人だ。習近平がルールを変えてしまったが、国家主席と中央政治局常務委員の任期は10年までとされていていた。習近平がルールを変えたといっても、今の所15年までだ。そして、これまでは中央政治局常務委員は引退後は酷い目に合わないという保証もあった。周永康はあまりに汚職が酷かったようで彼は訴追されてしまったが、まあマトモにやっていれば安全は保証されることになっている。こうすることによって、権力者が安心して次の世代に権力を移譲できるようになっている。

 

しかし、残念ながらプーチン=ロシアには、こうしたシステムはない。こうなると、自分と思想や利害関係を共有する人間に権力を移譲したくなるが、こうした人間はいない。大統領にまでしたメドベージェフは自由主義的で西側と近く、プーチンとは距離ができたようだ。そもそも、独裁者というものはNo.2を育てにくいものだ。独裁者は孤独だ。子分に権力を与えると、その人物が自分を裏切るかもしれない。特にプーチンは国内外で暗殺などをしてきており、そうしたシステムがあるから、それがいつ自分に向けられないかと恐れなくてはならなくなる。実際、プーチンは自分の周りに独立した親衛隊を置いているようだ。しかし、これでは安定した後継者を育成できないから、やはり自分の引退後・死後の心配は絶えない。

 

  • 独裁者の権力維持のための資源輸出と戦争

プーチンが20年に渡り権力を維持できてきたのは、経済を立て直したことと、対外的な強硬姿勢とそれによる成果によりナショナリズムを高揚させてきたことにある。また、メディアを支配していることも大きい。もちろんロシアは一応民主主義国家で、大統領は選挙で選ばれるのだが、具体的な権力基盤としてはシロヴィキと呼ばれる軍・警察、オルガリヒと言われる財閥、そしてメディアだと言われている。シロヴィキの支持はこれまでの対外的な軍事・外交での成功から得られており、オルガリヒの支持は経済成長に支えられている。

 

ただ、経済成長と言ってもかなりの部分は資源に依存している。そして、資源と独裁というのがとにかく相性が良い。中東、アフリカ諸国やベネズエラなど、資源のために独裁政権が続いている国は多い。資源というものは、その利用の権利さえ得てしまえば簡単に稼ぐことができる。これが独裁者に金を集中させ、その権力を強めてしまうことが多い。逆のパターンとして日本のように資源の少ない国を考えてみれば分かりやすい。日本には資源が少ないため、経済成長をしようとすれば国民をきちんと教育し、科学を振興して、製造業による貿易を行わなければならない。そうなると、国民の知的水準は上がるし、知識層も社会で影響をもちうる。彼らと独裁政権の相性が悪いのは当然だろう。余談だが、特に2014年のウクライナ侵攻以降もプーチン=ロシアから石油や天然ガスを買い続け、彼らに金を流し続けた西欧や日本の罪は非常に重い。

 

ただし、資源による経済成長には限界がある。近年は特にエネルギー価格が高騰して、これがロシア経済を助けていたが、それも永遠に上がり続ける訳ではない。つまり、資源だけでは経済成長に天井があるということだ。この天井の打破も、資源依存の独裁国に共通する課題になっていて、近年ではUAEカタールの活動が有名だろう。ロシアも同じように努力しているが、ロシアはとにかく国が大きくて人口が多い。これも中東やアフリカの資源独裁国以上に大きな足かせになっている。また、こうした国では優秀な人材の海外流出がおこりがちであり、資源独裁国ではないがこれなどは中国などにも共通した問題になっている。また「悪銭身につかず」というが、資源という楽な稼ぎ口がある以上、どうしてもマジメに勉強して製造業で頑張るという風潮を国内で育成することは難しい。マジメに勉強した人でも、就職先として望ましいのは資源関係の財閥や軍需企業ということになりがちだ。また、独裁国家にありがちな問題として汚職があり、これも健全な経済成長を妨げてしまう。

 

経済成長に限界があるとすれば、次に国民に支持を受ける手段としてはナショナリズムを高揚させて戦争に勝つしかない。実際に、プーチンは数々の紛争で勝利を続けてきており、2014年のウクライナ侵攻はその最大の成果だろう。あれでプーチンの国内での支持率もかなり上がった。

 

しかし、問題は権力維持のためには一度勝つだけではなく、「勝ち続ける」ことが求められるということだ。戦争に勝てば一時的には国民等から支持を得ることができるが、しばらくすればその熱も冷め、経済や社会保障の荒さに目が行くことになる。

 

長期的な経済成長が期待できない以上、プーチンウクライナに更に突っ込むのは必然だったと言える。なぜなら、もうケンカできる相手とはケンカし尽くしてしまい、更にケンカを吹っ掛けられる相手がウクライナしか残っていなかったからだ。西に目を向けると、バルト三国NATOに加盟しており、逆にベラルーシは既に影響下にある。コーカサス地方では旧グルジア・現ジョージアはその国名の呼称の変更に見られるように、完全に西側にいってしまった。極東はアメリカと軍事同盟をしている日本がいるし、中国の存在もあってできることは限られている。後は中央アジア、例えばカザフスタンだが、こことは友好的な関係を築けてしまっている。

 

今回の戦争でロシア軍の死者数が取り上げられることが多いが、2014年以降のウクライナ南東部での内戦で既に大きな被害を出していたことはあまり議論されない。2014年時点では完全に寝ていたウクライナ軍と国民だが、2014年以降はナショナリズムが高揚して軍の強化が進められてきた。西側からの武器の調達も進み、南東部2州ではむしろ優勢に戦いを進めていた。

 

既に述べたように、プーチンには更なる「勝利」が求められているのに、現実にはウクライナで泥沼にハマり、むしろ負けそうになっている。こうした状況では、局面を逆転させ、「勝利」するために、大規模にウクライナに侵攻することはむしろ必然だった。時間を費やしていても国内の権力基盤は弱まるばかりだし、ウクライナの軍事力は強化される一方だっただろう。そして、プーチンは健康問題を抱えているか、そうでなくても自分の政治的な寿命が尽きるのが現実的になってきていた。

 

ここまでの情報を踏まえた上で、最初に書いたウクライナ侵攻作戦の予想の背景を説明しよう。プーチンに求められるのは「勝利」だ。そのためにはウクライナ南東部だけへの侵攻は十分ではない。南東部二州を独立させ、あるいは併合したとしても、ウクライナとの内戦は続くし、これが分の悪い戦いだということは既に書いた。ウクライナの政権が反露的である限りは、いつまで経っても勝つことはできず、逆に軍の死傷者が増え経済負担は増える一方だ。

 

そうなると、根本的な解決にはウクライナの政権を転覆させ、親露政権を樹立するしかない。しかし、2014年のウクライナへの侵攻のため、今さら経済支援などの温い手段でウクライナを再び親露にすることは不可能だ。そうなれば軍事力にうったえるしかない。そのため、ゼレンスキー政権やウクライナ軍の中枢を殺害・捕獲し、ウクライナ軍の指揮命令系統を混乱させ、首都キーフを占領するというのは自然な話の流れだろう。実際に戦争開始初期に、ロシア軍はキーフ近郊の空港を占領して空から軍隊を投入し、同時にウクライナに潜入させていた特殊部隊を暴れさせ、一気にキーフを占領する動きを見せた。しかし、ウクライナの俊敏な対応に合ってこの作戦は失敗してしまう。キーフから近いベラルーシから陸軍を南下させたが、軍の指揮命令系統が維持されている間はそれだけではキーフを陥落させることは難しい。

 

この失敗パターンの先の予想は難しかった。電撃占領ができないのであれば、まずはキーフを包囲する必要がある。しかし、そのためには北部に展開していた軍だけでは不十分で、東部や南部からも侵攻する必要があった。しかし、こうなるとほぼウクライナへの全面侵攻ということになってしまう。様々な議論があるが、ウクライナの全面侵攻には60から80万人の軍隊が必要だとされているが、実際にロシアが展開出来ているのは20万人弱であり、これでは明らかに足りない。特に東部からキーフへ進行している部隊の兵站の問題が指摘されているが、そもそも軍の規模が足りていない訳だ。現状では兵数は足りている様に見えるが、普通に考えたら国外で戦争を継続するには時間的な制限がある。つまり、兵隊さんを交代させなければならない。そうしなければ疲労が蓄積して士気が下がるのは当然だろうし、実際にそれが起こっている。そもそも、ロシア軍は近年の軍縮で兵数を削減しており、現状以上の軍をウクライナに投入する余地はほとんどないと考えられる。

 

この議論を前提とすれば、電撃占領の失敗パターン後の予想が難しかったことがお分かり頂けると思う。理屈としては、失敗した以上潔くそれを受け入れ、形の上では全面侵攻をしてウクライナ軍を分散させ、実質的には南東部を自然環境的に防衛しやすいところまで占領するというのが正しかったと思われる。しかし、このストーリーには2つ無理がある。

 

1つ目は軍事的な問題だ。それは、ウクライナの領土が起伏が少なく平坦な部分が多いということだ。このおかげでウクライナは豊かな農業地帯になれた訳だ。しかし、国土が平坦だということは、都合よく占領できる境目が少ないということを意味している。考えられるのはドニエプル川を境界にするというものだが、これはほぼウクライナの東半分ということになり、それでも占領するには広大過ぎる。実際に、南部のマウロポリ、東部のウクライナ第2の年ハリコフですら未だに占領できていない。キーフに展開している軍隊を東に集中する手もあったが、それだとウクライナ軍もキーフを守っている軍を東に展開するし、現状以上に西側からの補給を食い止めることができない。

 

2つ目の問題は政治的なもので、仮にドニエプル川以東を占領したとしても、そもそものプーチンからみたウクライナ問題は解決せず、むしろ悪化するということだ。占領地域が増えればそのために動員する軍の規模は大きくなり、経済的負担が増すと同時に軍の損耗も大きくなる。更なる侵攻は西側の怒りをかい、現状の様な経済制裁が予想されるし、ウクライナへの支援も広がっただろう。そして、ウクライナ政府は増々反露的になり、西側、NATOとの緩衝地帯を作るという目標は達成されない。

 

  • ほぼ必然の泥沼化か?

こうして理屈を積み上げてみると、初期のキーフ電撃占領に失敗した以上、プーチンが泥沼の戦争に引きずり込まれるのは必然だったようにすら思えてくる。最初の作戦が失敗してしまうと、適当な中間的な着陸点は考えにくかったと思う。メディアで議論されるように、南東部2州だけを占領し、そこを独立もしくは併合する手もあったように思われるかもしれないが、それが問題解決にならないのは既に述べた通りだ。しかし、現在展開されているように、全面侵攻はコストとリスクが大きすぎる。こうなると、後はプーチンにどの程度合理性が残されているかといった、外部からは推測しにくい議論になってしまう。事後的にも、予想は難しかったと思う。

 

事後的に明らかになった情報を整理しよう。まず、ロシア軍は特に東部から侵攻した部隊の兵站に失敗している。なぜその準備ができていないのかは理解に苦しむ。考えられるのは2つのパターンで、1つ目はプーチンが理性を失っていること、2つ目は彼に適切な情報が伝わっていないことである。どちらもありそうなことだ。前者については、プーチンは冷徹に計算して行動する人間だと思われているが、2014年の侵攻なども直情的に行った可能性が指摘されている。今回は事前に大規模な演習をするなど準備をしている様子はあったが、それはあくまで脅しだと軍内部では理解されていたのかもしれない。これは事前にも明らかになっていた情報だが、右派の退役将校がウクライナへの全面侵攻に反対していた。軍事的に全面侵攻に問題が大きいことは、プロには分かっていた訳だ。ただ、最近情報機関FSBの幹部が拘束されたというニュースもあったように、取り巻きが都合の良い情報だけを上げていた可能性も高い。まあ、トップが理性を失っているからこそ正しい情報を上げられないということもよくあることで、2つのパターンは両方起こっていたというのが正解かもしれない。

 

プーチンが理性を失っている証拠の1つが、ウラジーミル・メジンスキーという元「文化大臣」が現在大統領補佐官になっており、停戦交渉の中心人物になっているということだ。メジンスキーは要は右派の「歴史研究者」であり、それがプーチンに気に入られて文化大臣に登用された。それだけなら分かるが、そういう人物が大統領補佐官になり、さらに停戦交渉の責任者になっているのは理解に苦しむ。日本で例えれば、櫻井よしことかが中国・韓国と交渉しているようなものだ。こんなものがマトモな交渉になる訳がないのは、それこそマトモな人間であれば容易に想像できる。

 

残念なことだが、これもまた孤独な独裁者の典型的な末路という感じもする。別に独裁者でなくても、孤独で社会的に成功していない人間が、自分と国家を同一視して、偏った歴史認識をもってネトウヨ化するなんてありふれた話だ。

 

問題は、それがただの田舎のおじいちゃんではなく、現状でも世界最高レベルの核・化学・生物兵器を持った独裁者だということだ。プーチンが化学・生物兵器を利用する可能性をアメリカが強く主張しているが、実際に起こりそうだというのが厳しい所だ。

 

  • 今後の予想

大体自分のプーチンに関する考え方はまとめられたと思うが、折角なので今後の予想もしておこう。残念なことに、ロシア軍がキーフの占領と現ウクライナ政権の打倒、そして傀儡政権の樹立が近々行われなければ、プーチンは化学・生物兵器を使用する可能性は高い。

 

これに対しては、国際社会は更なる経済制裁で対抗するしかないだろう。現状でもかなり厳しい経済制裁を課しているが、まだそれをキツくする余地を残している。具体的には、ロシアからの資源輸入の禁止だ。これはほぼロシアとの貿易を完全に停止することを意味している。ロシアの金融機関の一部をSWIFTから除外されたが、これも全面化されるだろう。こうなれば、ロシア経済は更に深刻なダメージを受ける。流石にロシア国民も耐えることはできないだろう。

 

こうなると、どうなっても破滅的な結末しか見えない。プーチンはその権力を維持することが難しくなるだろう。彼の暗殺などのリスクも高まる。逆に、プーチンが軍・警察などの支持を得て国内を抑えにかかれば、今度はロシア国内で暴動・内戦がおこるかもしれない。いずれにしても、ロシア自体がかなり不安定になるのは間違いない。そこで、現実的で頭がまともで西側に融和的な人物が後継の権力者になってくれれば良いが、そうなる保証はどこにもない。さらに頭のオカシい人物が後継したり、あるいは権力の空白が起こってロシアがグジャグジャになる可能性もある。

 

これが見えているから、未だに西側はロシアへの制裁を最高レベルに引き上げられない訳だ。しかし、大量破壊兵器の利用は西側の許容範囲を超える可能性が高い。特に危険にさらされているバルト三国ポーランドあたりに冷静さを保つことを要求することは難しいだろう。また、アメリカ国内でも流石にウクライナへの介入に賛成する人が増えてきている。オバマはシリアのアサド政権に化学・生物兵器の使用はレッドラインだとしたが、実際にはその継続使用を止めれば許してしまった。今回も小規模なものだったり、1回2回であればお目こぼしになるかもしれないが、プーチンがそれで留まれるとは思えない。なぜなら、それでウクライナが停戦するとは考えにくいからだ。

 

また、上の議論はキーフが陥落しないシナリオだったが、仮に陥落したとしても国内外でゼレンスキー政権あるいは反露政権が続く可能性が高い。ウクライナ人の継戦意思が続く限りは、ウクライナ内部でゲリラ戦が行われるだろうし、西側もそれを支援し続けるだろう。

 

現段階の情報をまとめると、ウクライナではなくロシアに相当のリスクがあると考えておくべきだろう。この問題に関して日本ができることはほとんどないが、食料やエネルギーの備蓄を増やすなどはやっておくべきだろう。

一票の格差について

・何が問題なのか?

日本国憲法14条1項における「法の下の平等」に反すると考えられるためです。実際に、これを根拠に過去に違憲違憲状態との判決が出ています。

 

・裁判の歴史

衆議院については1972年の選挙から争われています。民主党政権が選択された2009年の選挙についても裁判が行われ、最高裁違憲状態としています。

一票の格差 - Wikipedia

 

参院選については1962年選挙から争われています。野党が躍進し自民党が下野するきっかけとなった1992年の選挙についても裁判が行われ、最高裁違憲状態判決が出ています。

 

・なぜ選挙前に言わないのか?

日本国の法体系では「被害が確定」してからしか裁判できません。

 

選挙制度をどうするのか?

それは立法府において考えられるべきことです。実際に、衆参両院について超党派の審議会において度々選挙制度の改正が行われてきました。大選挙区中選挙区・完全比例代表制など、「国民的議論」の下に抜本的な制度改正も考えられます。

 

・地方の切り捨て?

日本国憲法は「国民」が法の下で平等とされています。地方行政単位当たりの平等性のような概念はありません。この点は、日本は連邦制国家などではないため、連邦制国家等とは全く事情が異なります。例えばアメリカ合衆国は連邦制国家であるため、上院議員は州の人口に関係なく2名が割り当てられています。

もし「地域間の平等性」のような概念・権利を日本に持ち込みたいのであれば、連邦制国家などを採用するのが良いと思われます。また、ここまでラディカルでなくても、高齢化する地方をなんとかするべきだという議論はありえます。それについては、下の「個人的見解」に記しました。

 

・過疎地では1選挙区が大きくなり過ぎないか?

議員定数を増やすなどして、小選挙区1県1人(参議院であれば1県2人)を維持できると考えられます。

 

・一票の重い地域に移住すれば良いのでは?

日本国憲法では移動の自由が認められています。そして、どんな移動先においても法の下に平等に扱われる権利があります。平等に扱われるために移動の自由が制限されるのでは本末転倒です。

 

 

◆個人的見解

以下は個人的見解です。下に行くほど、より「個人的」なものになると思います。

違憲状態判決が続くことの三権分立立憲主義へのダメージ

司法が「違憲状態」という判決を出し続け、これを立法府が事後的に修正し、それがまた次の選挙では「違憲状態」と判決される。これは、司法の存在意義、三権分立を危うくするものだと思います。日本国憲法の基本精神の1つは三権分立ですが、その前に国民主権があります。そして、その国民の意思を直接体現しているのが立法府であり、三権の中でも最も権威があると思われます。それを踏まえ、司法(最高裁等)は「違憲状態」とは言っても「違憲」、つまり「選挙無効」として立法府の意思を覆すことは非常に難しいと思われます。しかしこの状態が続けば、立法が司法を軽んじている様に見えます。

また、「違憲状態」の立法と、そこで選ばれる行政で「政治」が行われることは、その「政治」が果たして憲法に照らして正当なものなのかという疑念を起こさせます。

 

衆議院格差2倍、参議院格差5倍までなら合憲という判決は非合理

数字の根拠が全くありません。もちろん、完全に1倍にすることは難しいでしょうが、現実的な国会議員数で極力1に近い数字を目指すべきでしょう。実際に、アメリカの下院などは1.01倍が目指されています。もちろん、ここまで厳格に行った場合には、選挙ごとに選挙区が変わるという不安定性という問題も生じます。

 

地方切り捨て論について

日本では一票の格差によって一票が重い地方が政治力を発揮し、地域間での所得再配分が観察されます。しかし、これは都市の低所得者から地方の高所得者への所得再配分でもあり、非常に非合理的です。所得再配分は「原則的には」個人(世帯)の所得等(資産など)を基準とすべきでしょう。また、これは「法の下の平等」という憲法の精神とも整合的です。

地方の過疎化する地方・地域をどうするかという議論は検討されるべきだと思います。特にこうした地方の県・町村は高齢化が進んでおり、財政的に苦しい所が多いと考えられます。これが問題になるのは、そうした自治体では税収が少なく、基本的なサービスを十分に提供できなくなるからです。この問題に対応するため、人口密度・高齢化率など「客観的な指標」を元に、国民が納得できる自治体のサービスが提供できる水準まで自治体に直接税金を配分するべきだと思います。公共事業等を通した所得配分は、不必要な支出を伴うため非効率です。

また、例えば健康保険・介護保険制度では、高齢化率などを基準にした財源の再配分を行うべきでしょう。現状の健康保険・介護保険制度では、逆に高齢化率の高い自治体の財政が苦しくなっており、地方が非合理に苦しむことになっています。これも「客観的な指標」に基づく政策が行われていないことが究極の原因だと思われます。